[ 暗い、cry ]





たとえば其処がどちらの部屋だったか、なんて関係なく。
だから正確な時間も日付も何もかも定かじゃない。
特に何事もなく何でもないまま終わりそうだったとある日、
切っ掛けは真夜中、ふと目が覚めてしまい洗面所まで行ってベッドまで戻ったところだったと、
それだけは確かで、覚えている。


いまいち覚束ない、情事の後の気だるい身体で再び潜り込もうとベッドの傍まで歩み寄ったとき。


「うおッ!?? 幽霊かとおもったぜ・・・・」


ゆらり、と気配を察したのだろうか。 それまで熟睡、爆睡していたはずの虎徹が大袈裟に驚きながら、がばっと飛び起きた。
そんないつもの彼のオーバーリアクション気味の反応に、自分もいつもと同じよう、
普通に、ただ普通に、
「違います僕です」 とか、
「起こしてしまってすみません」 とか、
「ヒーローが幽霊なんか怖がらないでください」 とか、
そんなふうに軽く流してまた同じ毛布の中に潜り込んでしまえば何も問題はなかったのに。


「幽霊なんて、いませんよ」


何故、
この時の自分はこんなふうな科白を並べてしまったのか、後になってもバーナビーは分からずに、いる。


「ン?」


ナイトランプも点けずにいるのに、自分の声のトーンから察したのか、
虎徹が首を傾げるのが見て取れる。
真夜中なのに、互いの顔がはっきりうかがえるのが不思議だと思ったら、
外から差し込む星明かりが気味が悪いほど、明るかったせいだった。 こんな夜は珍しい。


「・・・・もし存在しているのなら、何故出て来てくれないんですか」


あなたの大切な人も、
僕の家族も。


そこまで言いかけて、寸ででさすがに堰き止める。


「バニー?」


どうした? と虎徹が訝しげに問い掛けてくるけれど。
もし、もしも彼の大切な人が幽霊としてでも自分の前に出てきてくれるのなら、
「このヒトを僕に下さい」 と頼んで願って、
快く了承してくれるのならそのままに、
「駄目」 と拒絶されてしまうなら 「でも欲しいんです頂きます」 と宣言して宣告してそれから、
それから、


「・・・・・・すみません、」


続きが無い。
続く言葉は、無い。


黙りこくるばかりのバーナビーに、虎徹は何かを察したらしい。


「バニー」


「・・・・はい」


「んな格好でんなトコに立ってねーでこっち来いよ。 風邪ひいちまうぞ」


言われたかと思ったら腕を引かれた。 そのまま毛布の中にどさりと引き込まれる。
こんなとき、虎徹の強引さはとても有効なようで、
けれど今夜に限ってはそこまで効力を発揮せず。


「虎徹さん、・・・・僕は、」


「そろそろ、一緒に暮らそうぜ」


あえてバーナビーを遮って、今まで何度も何度も告げられて、その度にあやふやなまま、
有耶無耶にしてきた言葉を彼はまた、告げてくる。


「楓ちゃんにはどうやって、なんて言うつもりですか」


そうして自分はまた、彼のウィークポイントを突く、卑劣な返答。


「・・・・そのうち、な。 そしたら、チャーハンの作り方も毎日お前に教えてやれるし」


「そんなことをしたら、もう本当に後に退けなくなってしまいますよ」


「今更。 もう止まれねぇだろ」


なあバニー、流されてみろって、ラクだから。 と、甘くてずるくて陋劣な囁きに負けそうになる。


「・・・・とっくに、」


流されています、と無理矢理喉から絞り出した。
気付けば後頭部に添えられた虎徹の手の暖かさに、意識まで乱されながら。


そう、いつもこうやって流されて、追われて、そうして追い込まれて。


「・・・・逃げる気は、ありませんから」


何から、誰から。


続きは、無い。
続きを、続けられるほどの覚悟も、無い。


「お前、ここ最近ずっとオーバーワークだったからな。 ・・・・疲れてんだろ。 もう今夜は眠ろうぜ。
明日は昼からだし、ゆっくり寝て、遅く起きりゃいい」


気遣う台詞と口調。 虎徹はいつもそうだ。
解決策、までとは行かない、ただの先伸ばしにすぎない言葉だけれど、
一応の出口、一旦の逃れ先を作ってくれる。
なのに、延々とループに迷い込むのは間違いなく自分のせいだ。 いつも。


「楓ちゃんと結婚すれば、何の問題もなく虎徹さんと家族になれますよね」


こんな余計な、心にも思っていない失言。 否、むしろ暴言。
そんなバーナビーに、虎徹はどう返してくるかと思ったら。




「サイアクな事、言うなよな・・・・」




冗談と取るでもなく、戯言と受ける訳でもなく、
本気で困ったかのような響きに、困惑して、閉口されたから。




「・・・・・・とりあえずは、最低だと言われなくて安心しました」




そう言い切った後、
金髪に添えられた体温の温かさを利用して、自分から口付けた。




何も変わらない、いつもの味がした。




「泣くなよ」




少しずつ、角度を変えて重ね合う口唇の合間、触れ合った舌に感じる涙の味。
ばれていながらも、それすら偽って自分は気付いていないフリをして、




「・・・・・・下手、ですよね虎徹さん。 どれだけ交わしても」




「実践する相手がバニーしかいねえからなぁ」




「それは・・・・・・・・ご愁傷様です」




強引に、遮二無二いつもの会話に互いに持っていく。
そうして、もしも今、互いの亡くした家族が幽霊として枕元に立ったとしても気付かないほど、
その残り香までも消し去るほど滅茶苦茶な抱擁を求め、かき抱く。










―――――――― Sexは、ただ疲れて眠るためだけの手段になっていながらも。










もう互いに朝まで、眠らせてもらえそうにない。











たまーーーに暗いのが書きたくなるんです。
あーやっぱり阿呆な話の方が気がラクっていうか書きやすい・・・・。
もしこんなスタンスだったなら(笑)、自分的にはどっちもどっちだとおもいます(笑)