[ William ]







「・・・・・ん、」
ふ、と口唇に触れてくる温かな体温に、意識がもどる。
意識した途端、何よりも誰よりも一番よく知っている匂いが鼻先を掠め、ついっと離れていった。
「・・・・・何、するんですか・・・・・」
ゆるゆると目蓋を開けながらバーナビーがそう言うと、やたら嬉しげな三十路の目許が一層緩んだ。
「もう朝だぜー」
「・・・・・・・・まだやっと6時じゃないですか」
時計の表示を見て、息をつく。
今日は丸一日オフだというのに。
だから昨夜から今現在まで、ずっと揃って寝室で同じシーツの上にいるというのに。
しかも、たった数時間前までイヤというほど(・・・・本当はそれほど実は全然イヤじゃないけど)
引っ付いて絡み合い尽くしていたにも関わらず、そんな起こし方をしてくるなんて。
「寝ます」
宣言して、再び目を閉じる。
すると至近距離、耳元に虎徹の声が降ってきた。
「起きろって。 起きてくれねえと、もっかいしたくなるだろ」
「・・・・・・・・・・」
「バニー?」
「・・・・・・・・・・」
悪戯っぽい声で名前を呼ばれるけれど、動かない。 あくまで最初は自分からは動いたり反応したりしない。
「あと三秒以内に起きねぇと、襲っちまうからなー」
「・・・・・・・・・・」
勝手な台詞にも、我慢してたぬき寝入りならぬ、うさぎ寝入りを決め込む。
「3、2、1、 ・・・・よし!」
何が 「よし!」 なんですか、と思わず突っ込みを入れたくなりながらも、塞がれる口唇と背中に回ってくる腕をおとなしく受け入れた。
「起きねぇバニーが悪いんだからな☆」
目蓋は閉じたままだったから見えなかったけれど、
虎徹は口調からして、いつものようへらりと笑ったのだろう。
「・・・・・・僕は何ひとつ悪くないと思うんですが」
「おっ、今更起きたところで遅いっつーの。 ま、時間はたっぷりあるし、もっかいくらい・・・・イイよな?」
退く気なんて最初から初めから皆無なくせ、彼はバーナビーに一応の伺いをたててくる。


・・・・・・・決してイヤではないことを、むしろ待っていたことを知っているくせに。


「仕方のないオジサンですよね、いつもいつも」


苦笑を微笑に切り替えて、ベッドの中、数時間前と同様、
ずいっと乗り上げてくるその身体に自分からも腕を伸ばした。























揃って裸のままベッドの中に居たため、脱がす必要は無い。
昨夜に引き続き、細身の身体を何度も抱き込む。
互いに、決して柔らかくはないし、どちらかといえば骨張った体格。
それでも、分け合う体温はこの上なく心地いい。
もう飽きるほど繰り返したキスを今度は呆れるんじゃないかというほどまた交わして、
「ふ、・・・・っ」
息継ぎの途中、あたるバーナビーの吐息を虎徹は快く愉しむ。
「・・・・は、っ・・・、」
甘く絡む熱と息。 こんなにキスに夢中になっているというのに、バーナビーの声は抑え気味で、
虎徹は一度口許を離して、その翠色の瞳を覗き込んだ。
「まだ、声とか嗄れるトコまでいってねーよな?」
冗談っぽく言ってみると、当のバーナビーはバーナビーで、
「・・・・・・時々、思うんですが」
「あ?」
「僕はいつもいつも甘やかしすぎているんじゃないかと。 ・・・・・虎徹さんを」
小さく微笑みながら、「それって虎徹さんのためにも、僕のためにもあまりよくないですよね」 とか告げてくる。
それに対して、三十路は三十路の余裕。
「別にイイんじゃねーか?」
何かに誰かに夢中になれるってコト自体、シアワセだろシアワセ、とさらりと話題をすり替えてかわし、
こーんなキモチイイコトが良くねーコトのハズねえって、と最後に一蹴。
自然な仕種でバーナビーの鎖骨のあたりに唇を落とす。
朝の光の中、目に映るバーナビーの素肌は白く、それが愛撫を繰り返していくうちに淡く染まってくるのを愉しみながら、胸元を何度か吸い上げた。
「は・・・・・っ・・、」
胸の肉粒に濡れた感覚を感じ、バーナビーの身体が跳ね上がる。
「どーも最近よお・・・・」
舌先で乳首をついついと転がしながら、苦笑混じりに虎徹から語りかける雑談。
「な・・・・んですか?」
「眠りが浅いっつーか、妙に早く目が覚めちまうっつーか。 昔と比べてあんまり夢も見なくなったしなー」
だからさっきもお前より早く起きちまったんだ、最初はけっこうガマンして、バニーの寝顔眺めるだけにしとこうと思ってたんだぜ、と告げてみる。
「・・・・でも、結局我慢できなくて・・・・、こう、なってるわけですよね」
胸元を軽く喘がせつつも現状把握しっかりバッチリ、のバーナビーに、言い出した三十路本人は小さく苦笑するしかなく。
それに追い討ちをかけるかの如く、
「恋に落ちると、あまり眠れなくなるっていう話は聞いたことがあります。 理由は、現実が夢より素晴らしく感じられるせい、だそうですよ」
悪戯っぽくもやたらロマンチストめいた返答をしてくるバニーちゃんに、
「お、マジで?」
虎徹はふにゃりと目許を下げつつ乗せられつつ、
「・・・・・・・・・・・ちょっと待て、けどバニーは思いっきり寝てたよな? 爆睡してたよなあ?」
それってつまりはアレってことか、夢中になってるのは俺だけでお前はそうでもない、
・・・・ってもしかして遠回しに言ってきてる? と看過できない疑問も生まれて頭をよぎり、
「・・・・さあ? だったらただの更年期じゃないですか。 男にも更年期は訪れるみたいですから」
「バ〜〜〜ニ〜〜〜〜!!」
ここにきて、そんなバーナビーのくすくす笑っている表情を見て、単純に茶化されたことに気付く。
早い早い。 更年期はまだ早い。 万が一訪れてしまう日が来るにしても、まだ。 いくら何でも。
「あーもう、お前がその気なら容赦しねーぜ。 もう絶対眠らせねぇ」
ヘンなところで俄然、スイッチが入ってしまった虎徹に、
「単なる冗談のつもりだったんですが・・・・。 ・・・っ、ぁ!」
気付いて今更フォローを入れられてももう遅い。
すうっと下方に手のひらを滑らせ、しっとりとした内股をゆっくり撫で上げた。
そうして、中心部をきゅっと握り込む。
「・・・っ・・・、く・・・・」
丁寧に上下に扱き上げていけば、ゆるゆると勃ち上がってくるバーナビーの肉棒。
括れたところをゆっくりなぞり上げながら擦ると、先端からじわりと透明なものが浮かび上がってきた。
「瑞々しいよなぁ♪」
「あ・・・、ッ、・・・・う・・・・!」
疼いて甘い性感に、素直に反応を示すしなやかな身体。
その弱い箇所を何度も何度も弄って、急速にバーナビーを追い上げる。
「は・・・っ、ぁ、・・・・っっ・・・・!」
扱き上げる手と指の速度に比例し、バーナビーの呼吸もすぐに乱れ、その身体が汗ばんできた。
弄り倒す虎徹の手元からも、濡れた音がくちゅくちゅと響いてくる。
「また味わっても、イイよな?」
楽しげ嬉しげに囁いて、当人の返事を聞く前にぐいっと脚を大きく開かせた。
「・・・・っ・・・」
張り詰め、とろとろに濡れたそこを広げられて見られてしまう羞恥に、
いつまで経ってもどうしても最初は息を飲んでしまうバーナビーに構わず、
無駄な肉の一切無い引き締まった内腿を虎徹は二度、三度と撫で、それから先走りの蜜を零す先端にふっと口唇を落とした。
「んぁ・・・・ッ・・・・!」
甘い声と同時に、細い腰が震えて戦慄く。
自然と浮いてしまうその腰を片手で抑え付け、バーナビー自身を限界まで口腔に招き入れ、収める。
それから、舌を絡ませながら唾液を使って強く弱く扱いていけば、
「ぁ、あっ・・・・ッ、く・・・・ぅ・・・・っっ・・・・」
みるみるうちに上擦ってくる声。 それは快楽にどこまでも素直なしるし。
「ん・・・・っ・・・!」
口淫をしっかり施しつつ、その後ろの最奥まで指を滑らせ、そこをくいっと撫でる。
「・・・・っふ、・・・ぁあ・・・っ・・」
最初こそ、そこはきゅっと窄まって僅かな抵抗を示したものの、
数時間前にしっかり時間をかけて解され、長い間虎徹を受け入れていたこともあり、
中指の第一関節までを一度埋めたあと、浅いところで数回出し入れを繰り返すと、
自然に蕩けてまた、軟らかく拡がって虎徹の指の侵入を許すようになる。
「・・・・・ん、あ・・・っ・・・」
ポイントを少し強く突いてやれば、途端、ビクンと大きく震えたバーナビー自身。
「お、イきそ?」
わかりやすい反応に、更に強めに擦り上げてみる。
すると、一際大きく身体を戦慄かせ、
「く、・・・・は・・・・ッ・・・・!!」
ぶるっと下肢を震わせながら、バーナビーは吐精した。




「・・・・ん・・・っ・・」
全て吐き出して、ふうっとバーナビーの全身から力が抜ける。
それでも達した余韻に荒い吐息はおさまらず、浅い呼吸を何度かしていたところで、
「バニー」
名を呼ばれ、反射的に上げた目線が虎徹の眼差しと合ったところで再び口唇を塞がれた。
「・・・・んぅ・・・!」
キスの途中、受け入れてそのままだった虎徹の長い指がまた内部で蠢き出し、
絡め合った舌のまま、漏れるくぐもった吐息。
口唇が離れても、虎徹の指は止まることはなく、また内部でバーナビーの弱い箇所を探って動き出し、
定められた前立腺、他と感触が違うそこを軽く撫でられただけで、また腰が震え出した。
「ぁ・・・、あ・・・・っ、ぅ・・・ぁ・・・・っっ」
触れられ、刺激されるそのところからじんわり融けていきそうなほど気持ちが悦くて、
内側から齎される快楽に視界が次第にぼんやりしてくる。
「ん、ん・・・・っ・・・」
指が一本、もう一本と続けざまに増やされても、増すのは与えられる性感と快感だけで、
その指が内壁を拡げ、擦って突き上げるたび、時折ポイントを掠めたり引っ掻いたり、その刺激につい先程弾けた肉棒も、再度また勃ち上がりの様相を見せていく。
そんな心地好い快感に浸っていたら。
「バニー?」
「ッッ!!」
突如、敏感極まりない先端をくいっと抉られ、喉の奥から悲鳴をあげてしまった。
途端、真っ赤に染まってとぷっと大量に先走りの蜜を溢れさせた先端と、バーナビーの表情を交互に見やって、虎徹が苦笑いを浮かべる。
「・・・・悪ぃ。 なんか、今にも眠っちまいそうに見えたからよ、」
「こ・・・・、こんな状態で眠れるわけが・・・・・・あ、う・・・・ッ!」
当然の反駁を返しかけたバーナビーだったのだが、
「ぅあ・・・あ・・・・っ、ああっ・・・!」
言われる前に黙らせちまえ、とばかりに弱い前立腺をぐいぐいと指先で刺激され、悔しいけれど途中からは何も言えなくなってしまう。
「っは・・・・、あ、、あっ・・・っっ・・・」
何度もかぶりを振って、過ぎる快楽を逃そうとしているうち、
自分でもわかる。 もう充分に蕩け、ほぐれた最奥。
そこから虎徹の指がまとめてずるりと引き抜かれ、代わりに猛った彼自身の先端がそこに宛がわれる。
「・・・・バニー」
至近距離、低く名前を呼ばれると同時、最初は傷付けないよう、ゆっくりと侵入してくる熱いもの。
「ん・・・・っ、・・・・ぁ・・・っ・・・」
「ッ・・・・」
程好く蕩けながら絡み付いてくる内壁の歓待に、虎徹も息を詰める。
軽く唇を噛み締めた、その表情。
言えば100%、まず間違いなく、必ず三十路を調子に乗せてしまうから、
バーナビーは絶対に言わないでいるのだけれど、
そんな、軽く目を細めて快楽を堪える虎徹の表情が、とても好きで。
けれど一体いつ、そんなことに気が付いたのかなんて自分でもわからない。
だけど気が付けば、(見られるときは) いつも注視するようになってしまっていた。
汗で張り付く前髪を無造作にかき上げるその仕種。
自然と荒くなった息。
情欲の浮かんだ目許。
こんな関係が成り立ってから、いつからか見蕩れるようになってしまった琥珀色の目。
その色は本当に虎の眼と同じ色をしていることに今更気付いて、
「、」
貫かれながら、改めて見つめていたら。
「・・・・どうした?」
怪訝そうな顔で、訊ねられてしまった。 それを慌てて 「な・・・何でもないです」 と誤魔化せば直後、
「ま、いーか」
大して気にも留めなかったらしい虎徹に、中をぐいぐいっと抉られた。
「あうっ・・・・!!」
強い刺激に、身体が跳ね上がる。
「待・・・・っ・・・・」
「無理」
即断され、ぐっと片脚を高く持ち上げられ、角度を変えて弱いポイントをぐりっと捏ね回された。
びりびりと甘く鋭い刺激が中で弾け、元々限界近かった身体は、
「ん・・・・ッ! あ、あ・・・・っっ」
こらえきれず先端から白蜜を弾けさせた。
「・・・・く・・・・ッ・・・」
弾けると一緒、きつく虎徹自身を締め上げる内壁。
それに釣られ、一挙に押し寄せてきた射精感に虎徹も逆らわず欲を吐き出し、
「ふ、・・・・ぁ・・・・ッ・・・ッ・・・」
内部に迸る熱い飛沫に、バーナビーの下半身が小さく痙攣する。
その熱く濡れた粘膜の中、欲を放ったにも関わらず、まだ虎徹自身は硬度を失っていない。
身体でそれを感じ取りながら、絶頂がもたらした快楽に全身、浸かっていたら。
「・・・・悪ィ。 我慢できなかった」
そこ、別に謝るところじゃないですよね? と返したかったのに。
「・・・・っ!? っあ、ぁ・・・・ッ・・・・」
達したばかりのバーナビー自身を再び手のひらで扱かれて、ゾクリと快感が背筋を伝い、全身から力が抜けてしまう。
中でも極まりない、先端部分をくにくに弄られ、徐々に腰が上下に動き出す。
「ん・・・・ぁ、ぁ・・・・っ・・・・」
昨夜からもう何度も達しているというのに、またもそこは快楽を拾い上げ、集めていく。
指先まで快感で支配されそうで、細い身体が不規則に戦慄きはじめ、
内壁は先程よりも激しく、虎徹を締め付ける。
「・・・・ン、さすがバニー」
「ひぁッ!!」
感嘆の声と同時、前触れもなく奥の奥を乱暴に突き上げられた。
それを始めとして、連続して激しく腰を使われ出す。
「ぁッ、あっ、う、あ・・・・っっ・・・!」
ズッ、ズッ、と速く強く突き上げを繰り返され、激しく穿たれる内部。
かと思えば一気に入口まで引き抜かれ、先端の括れの部分が内部のポイントに引っかかり、
また根元まで挿入される際に刺激を与えられてびくびく仰け反ってしまう身体。
腰をしっかり抑えられ、揺さぶりかけられると同時、空いた方の手でまたバーナビー自身を擦られ、
前と後ろとを一緒に愛される痛いほどの性感に、眩暈がする。
「ん・・・・ん、うっ・・・・っ・・・・」
何かに縋っていないと意識を飛ばしてしまいそうで、
迷わず腕を伸ばし、目の前の虎徹の背中に腕を伸ばす。
そうして、強く縋ったつもりがどうやら爪を立ててしまったらしい。
「・・・・いて・・・」
痛いと言いつつ、それでいてやたら嬉しげな三十路の腕が同じように背中に回ってきて、
より一層近付く身体と身体。
自然、そこも更に深く繋がった。
収縮して、虎徹を離そうとしない内側。
「は・・・・っ・・・、」
あまりの悦さに、思わず虎徹が甘い吐息をこぼす。
「・・・・・・・・、」
抱き合っているがゆえ、本当に眼前でその声を受け止めたバーナビーが、快楽に苛まれながらも反射的にその表情を窺い見れば、琥珀色の目と視線が合った。
「っ・・・・」
普段の、陽気な三十路やもめの雰囲気はどこかへ消えていて、
悦楽と快楽と情欲に満ちた表情。
呼吸に合わせ、不規則に上下する喉のライン、そして喉仏までも妙に色気があって、
彼の身体の下、不覚にも心臓が跳ね上がってしまった。
と同時、
「あっ、くはッ!!」
互いの間で勃ち上がっているバーナビー自身を接近させた腹で擦られ、
たまらず声を上げてしまった。
「・・・・っ、イイかもな・・・、コレ」
「あ・・・、あ、っは・・・ぁ、ぁ・・・・っっ・・・」
絶妙なところで体重をかけられ、虎徹の腹にぬるぬると体液を残すバーナビー自身。
それに連動し、内壁粘膜もこの上なく痙攣を重ね、虎徹にも最上の快楽を返していく。
「ん・・・・っく・・・・、う、ぅ・・・・っっ・・・」
限界まで張り詰めたバーナビー自身も限界で、またも絶頂が訪れる。
「・・・も・・・うっ・・・、駄、目です・・・・っ・・・!!」
「ン・・・・。 俺、も・・・・」
仕上げ、とばかりに素早く双珠を揉み込まれ、
「―――― ッッ!!」
たまらずにバーナビーは声も上げられないまま、勢いよく白蜜を噴き上げた。
と、直後。
またも自分の奥深いところで、虎徹の熱が撒き散らされたことを感じて、背中に回していた腕から力を抜いた。
























時計は見ていないが、たぶんまだ午前中であろう時間帯に再び、目が覚めた。


「・・・・首が痛いです」
もしかしたら少し寝違えたのかもしれません、とぼやくバーナビーに、
「俺は背中がヒリヒリする」
どっかの誰かが盛大に爪痕残してくれたからなあ、と苦笑で虎徹は返してくるに加え、
「そもそもそんだけベッドの真ん中占拠してて、どうやったら寝違えるってんだ」
見てみろよそのおかげで俺なんかこんな端っこで小さくなって寝てたんだぜ、とか言ってくるから。
「虎徹さんのベッドが狭いからいけないんです」
きっぱり。 言ってやった。
「だから、二人で眠ると全然快適じゃないし、身体もあちこち固まっての目覚めになるんです」
「そりゃあ・・・・シングル用だしよぉ・・・・」
誰かを(・・・・誰かさんを???) ココに連れ込むなんて、ちょっと前まで思いもしなかったからな、
と一人頷く三十路。
「買い換えてもいいんじゃないですか。 奮発してキングサイズのものとか」
「そんなでかいの、ココに入らねえって」
バニーんとことは違うんだっての、とぼそっと呟かれ、そのついで、
「バニーんとこなら、キングサイズでも余裕だろ? いっそ折半で、思い切ってすげぇイイやつ買うか」
名案! とばかり早々にノリノリ(・・・・) で、提案されたのだけれど。
「嫌です。 妙なスクープされたらどうするんですか。 余計な面倒事は増やしたくありません」
ただの買い替えならともかく、キングサイズなんて購入したらマスコミやファンに絶対にいろいろ詮索されるに決まってます、と一蹴。
それにそんなの購入したら、
虎徹さんが本当に毎日毎日僕のところに入り浸るのが目に見えてますから、と予防線防衛線を張ることも忘れない。
すると、少しだけ呆れたような顔をされた。
「んな・・・・・回数と頻度からしてみりゃ、ココもお前んとこも、大して変わらねえんじゃ・・・・」
「それはそれ、これはこれですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごまかしたな・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごまかされて下さい」


狭いベッドの中、同時に揃って苦笑。
どれだけ雑誌の中で格好つけていたって、
どれだけインタビューに取り繕って答えていたって、
どれだけカメラの前で演じていたって、
実際なんて実情なんて、所詮こんなもの。


「やっぱり、僕も虎徹さんも少し、おかしい・・・・ですよね」
「ヒーローとしては、なぁ。 自覚あるぜ」
「・・・・いえ、職業云々じゃなくて」
「バレたら、ちょっといろいろヤバイよなぁ」
「・・・・ですよね」
「ってコトはだ。 バレなきゃイイってだけの話だ」
「・・・・・・・・・・・・まあ、そうですね。 そうですよね」


そんな戯れ言を応酬しつつ、狭いながらもしっかり馴染んでしまったシーツの上、
バーナビーは、ふと。


―――――――― 狂ったこの世界の中で狂うなら気は確かだ。


そう明言した劇作家は、確か。


「・・・・・・話は変わりますがシェイクスピア、読んだことありますか」
「あー・・・・。 名前とタイトルしか知らねぇなぁ・・・・」
「それなら後で貸しますよ。 読んで損はありませんから」
「あ?」
どした突然、と訊いてくる虎徹に、今の心境を巧く説明することは不可能だと自分でもわかっていたから。
「なんとなく、です。 いつかこう、知識として必要になるケースが無いとも限りませんし」
適当に言い繕ってみたのだが。
「いらねえって。 もしどっかの何かで必要になったとしても、バニーがいるだろ」
お前がその時、噛んで含めてレクチャーしてくれりゃそれでイイや、と一言で言ってのける虎徹。
そういう問題じゃないです、と返しそうになり、バーナビーは途中でやめる。
確かに、
確かに虎徹の言う通り、隣に自分がいればいいだけの話、なのかもしれないと気付くその横、
まるで独白のよう、彼は。


「バニーとなら、ずっと生きていけるだろ」


やっとまた見つけられたぜ、と虎徹は呟く。


しかしずるいことに(もしかしたらただの偶然なのかもしれないが)
ぼふっとうつ伏せになり枕に顔を埋める形での呟きだったため、その表情は見えなくて。
だから自分も、
だからバーナビーも、




―――――――― 僕はそうじゃありません、


―――――――― 虎徹さんとなら、じゃなくて、


―――――――― 僕は虎徹さん無しでは生きていけません。




わざわざそう伝えることは、さすがに気恥ずかしくて、やめた。




代わりに話題変更。
いつもの普通(・・・・普通?) の日常(・・・・日常???) の会話に移行させる。




「・・・・・・あの、そろそろバスルームを借りてもいいですか?」
「まだ早ぇって」
「早いも何も、だってもう、  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・・???」
耳を疑い、思わず枕に伏せたままの虎徹を凝視してしまったら。
ゆっくり顔を上げられ、にぱっと笑われた。
「お? まーた俺がヨコシマなこと考えてるって思って、一瞬警戒しただろ」
「い・・・・いえ、別に、そんな」
心のどこかで思いまくっていたが、慌てて否定。 慌てて首を横に振る。 が、時すでに遅し。
「ま、大抵間違っちゃいねえけどな♪」
もそもそ、とその腕が下の方に向かって伸びてきた。
「ど・・・・! どこ触ってるんですか・・・・!」
「ん。 臀部」
「〜〜〜〜〜冷静に答えないで下さい!」
「臀部の、奥」
「・・・・っ・・・!」
「もっと奥」
「・・・ん、・・・ッ、っっ・・・!」




揃ってこんな調子では、
二人してこんな様子では、
下手をするとこのまま昼を通り越して夕方、もしくは夜までこのロフト上、
ベッドの上で過ごす破目に陥りそうだ。
それは道徳的にも職業的にも、人間的にもどうなんだろうと、
どうしようもない三十路によってまたも乱されていく脳裏の中で考えつつも。










広い世界の中の狭いベッドの上、とち狂いながらもヒーローの皮をかぶった、
背徳に満ち満ちた動物二匹がいたっていいかもしれない。












おじさん大好き! なうさたんをやってみようと思ったんですが撃沈。
ただの 「おふとんの中で始まりおふとんの中で終わる」 話になってしまいました。


・・・・いつものものと何一つ変わらんて・・・・