[ Lovely Bunnnnny!7 ]






またまた、喧嘩をした。




喧嘩の理由は始まりは、まあいつもの大したなんでもない些細なことである。
揃ってどちらも年齢にそぐわない、
大人だけどコドモのような中年と、
子供だけれどオトナになった青年とが意地を張りまくり、
いつの間にかもう発端になった出来事などこの際いっそどうでもよくなった挙句、
「僕は悪くありません」
「俺も悪くねえ」
「悪いのは虎徹さんです」
「俺は悪くねえって」
「じゃあ言い方を変えます。 非があるのは虎徹さんです」
「ねーえーよー!!」 
などなどエトセトラ、途中からは単なる意地の張り合いを経て互いに譲らず、
何度か幾度か睨み合い喚き合い、その結果。




「もう虎徹さんなんか知りません!! どこかへ行ってください!!!!」
「おい!」


「知りませんって!! あなたの顔なんて見たくもないです!!!!」
「おおおおい!!」


「虎徹さんが出て行かないのなら、僕が出て行きます!!!!」
「おおおおいおいおい・・・・!!!!」




ちょっと待ったココ俺の部屋だよな??? と虎徹が思わずぐるりと周囲を見回してしまい、
なのになんで俺が出てく展開になっちまってるんだ、との言葉を飲み込んで、
それでも何とか反論しかけようとした時。
「おわッッ!!!?」
バニーちゃんお得意の足技で、どかあんと蹴られて玄関から叩き出されてしまった。
「もうしばらく戻って来なくて結構です!!」
そして怒声と共に、眼前でカチャリとしっかりかかった、玄関ドアの鍵の音。
「な、何すんだバニー!!」
かろうじてポケットに財布は入っているものの、靴もいつもの帽子も無い。
と思った瞬間、
光速の速さもかくや、と言った勢いで玄関ドアが10センチだけ開き、その隙間からポイポイと靴一足と帽子が放られて、落ちてきた。
唖然としているうちに再び物凄い勢いで閉まるドア。 間髪入れず、またも施錠される音。
「・・・・・・・おい・・・・・・・」
十秒ほど呆然と佇んで、
このままここに居ても改善の余地の見込めなさを理解した虎徹がタメイキ混じり、
靴を履いて帽子を手に、のろのろと踵を返しかけると。




『〜〜〜〜〜〜でも夕食までには戻ってきてくださいね!!』




ドア越し、そんな言葉が背中を追いかけてきた。




「・・・・へ?  ―――――――― どうしろってんだよ・・・・・」




その言葉の意味が鼓膜から脳に到達するまで、そして理解するまで三秒ジャスト。
そうして思わず虎徹は腕時計を見る。 まだ午後二時である。
あと四、五時間、どこでどうやって時間潰しゃイイんだ、とぼやきながら、ぽすっと帽子を頭に載せた。



























「・・・・・で、自分の部屋追い出されてフラフラしてて俺とかち合った訳か」


「んー、まー、そーゆーこった」


眼前で、「そういや腹減ってたんだ昼メシも食わねぇままケンカしちまったからなー」、
などとひとりごちながらカレーを勢いよく平らげ真っ最中の昔ながらの友、
虎徹を呆れながら眺めつつ、アントニオは自分のコーヒーを啜った。
「それにしてもスゲェ速さだったよなああの玄関ドア。 ハンドレットパワーでも使ってたのかってくらいの勢いと速さだったぜ」
改めて感心したかのよう、そんなふうに虎徹に反芻されても、
「・・・・・・どうだかな」
アントニオにはそれくらいしか返す言葉がない。
そしてこんな時間からまだ大した酒場も開いているはずもなく、だからそのままこの所謂ファミレス、その隅の席の一角で(そこまで自分の方は多弁ではないが)、日常会話に移行させようとすると。
「あちッ!」
スプーンを放り出し、少しだけ慌てた虎徹の声がして、
見れば顔を少しだけ顰めて慌ててグラスの水を飲んでいる。
「どうした?」
怪訝に思ってそう問えば、
「カレーがしみた・・・・。 舌にでっかい血豆が出来てんだよ。 途中までは巧く避けながら食ってたんだけどな、すっかり気ぃ抜いて油断しちまった」
そんなものが出来ているのにカレーを選ぶってのもどうだかな、などと今更アントニオは言わない。
多分オーダーするまでそんなことも虎徹当人はさっぱり忘れていたのだろう。
長い付き合いでそのくらいは分かる。 だから。
「間違って自分で噛んで血豆か。 よくある事だ」
他意もなく、そう言ったら。
「違う。 バニーに噛まれた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あいつ、時々そーゆートコ容赦しねぇから参るんだよなぁ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
長い付き合いだったが、今度はどう返していいのか全くわからなくなり、思わず黙りこくっていると、
「ん? どした?」
がりごりとグラスの氷を噛み砕きながらきょとん、と真顔で訊ねられてしまった。 が。
そんな正面から訊かれたところで、、
「・・・・何かの拍子に、インタビューで口滑らすなよ」
せいぜいそう忠告するのがやっと、である。 が。
当の虎徹本人は友人のココロ知らず、
「ま、そん時はそん時だろ。 バニーがうまーくごまかしてくれるさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「そういや外でコーヒー飲むのも割りと久しぶりでよ。 バニーといると紅茶ばっかりなんだよなー」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
アントニオが何も聞いていないことまで口にしたあと、
自分のコーヒーに手を付け、まだ熱いそれが再びバーナビーに噛まれて出来た(・・・・・・どういうシチュエーションとどういった理由でそうなったのかはあえて聞かないが) 舌の血豆にしみたらしい。
「あちッ痛ッ!」
一人喚く、同僚で旧来の同年代三十路やもめ。
学習能力皆無だなお前、と軽く呆れつつ、ゆっくりアントニオが自分のコーヒーを飲み干し、
虎徹が今度こそはと注意に留意を重ねながら残りのカレーを片付け、
そこそこぬるくなったコーヒーをズズズと啜ったあたりで時刻はすでに夕方、
18時を数分過ぎたあたりになっている。
「・・・・で。 どうするんだそろそろ帰るのか」
「戻る。 最初に話した通り、夕食までには戻って来いって言われてるからな」
「・・・・バーナビーがメシでも作って待ってるのか。 なのに今カレー食ったばかりで平気か」
それが原因で、また余計なケンカに発展しねえだろうな、と他人事ながらついつい、
余計な気を回したら。
違う違う、と虎徹にひらひら手を横に振られた。
「逆、逆。 俺が晩メシ係。 俺がやらねぇと、あいつすぐレトルトに手ぇ出しちまうんだよな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・何・・・・・・・・?」
文字通り、目を丸くしたアントニオに虎徹は気付いているのかいないのか。
「『レトルトじゃありませんデリカテッセンです』 とか言いながら、結局は出来合い惣菜ばっかなんだよな」
あとはこう、【発展途上中のチャーハン】 になるんだよバニーの場合、
と、表向きはぼやきに似てはいるものの、思いきり嬉しそうなカオをしつつ、
「そんじゃ、バニーに晩メシ作りに買い物してから帰るわ。 ついでにお前も来るか?」
「・・・・・・・いや、俺はいい」
「そっか? なら、また明日なー」
時間潰しに付き合ってもらった礼に、お前のコーヒー代払っとくからなー、と伝票を手に席を立つ虎徹。
その背中を、
「なんだってんだ・・・・・・・・」
呆気に取られつつ見送って呟いて、
三十秒後、アントニオは突如、気付く。


ああ。
本人はこれっぽっちも自覚が無いが、
ただのノロケだ。


―――――――― 古き友は、ただの最上級バカップルの片割れだ。




























翌日、職場で会ったところ二人はすでにいつも通りだった。
どういう経緯でしたのかは知らないし、アントニオとしてもあえて突っ込んで聞く気もないが、
あの後、仲直りしたらしい。








しかし五日後、
同じく職場、今度はトレーニングセンターでまたも痴話喧嘩(という名の甘え合い甘やかし合い・総括するなら口喧嘩という名目に則った言い愛じゃれ愛???)
を繰り広げているのを通りかかって目撃してしまい、
「学習能力、本当に全くねぇな・・・・・」
と遠目でその様子を眺めながら、心底呆れかけた彼に。


「違うわよー」


「うおッ!!」


一体いつの間に、いつ、どこから現れたのか、真後ろに居たのはネイサンで。
同じく二人を眺めながらの彼(彼女???)、曰く。


「アレは喧嘩じゃなくて、ただの 【恋の更新】 をしてるだけ☆」


「・・・・・・・・・・成程な・・・・・・・・」


彼(彼女???) の喩えに妙に納得しつつ、珍しくも苦笑したアントニオだった。






















そして更に後日、同様にトレーニングセンターで、
「そういや血豆はもう治ったのか」
ふと何の気なしにそう訊いてみたところ。
「ん? とっくだよ。 ちなみに治って速攻、舌にタコができるほど××××してやった☆」
などと得意気に報告してくる虎徹の背後。
「バニーってば一旦素直になっちまうとかーわいいぜー? そん時もな・・・・」
捲くし立ててくる得意満面の虎徹がさっぱり気が付いていない中、
耳聡く聞き付けたらしいバーナビーが顔を思いっきり紅潮させ、
一直線にこちらに向かってずんずん歩いてくるのを発見、その距離が10メートルを切ったあたりで、
ロックバイソン、慌てて逃げた。








One shold not interfere in lover's quarrels.





痴話喧嘩ネタのマンネリもいい加減にしろやーーー!!
て自分でもおもいました。

脱兎