[ 輝くのは今だけさ ]
うちにしては割と珍しくも明るくない話ですのでご注意。
うちにしては割と珍しくも明るくない話ですのでご注意。
見ていられない。
痛々しい。
いたたまれない。
この感情をどう表現したらいいのかしら、とネイサンは溜め息をつく。
本来、他人のレンアイ事情と惚れた腫れたカンケイの話に首を突っ込んで、
その類の話に花を咲かせるのは決して決してキライな性質ではなく、
むしろ通常なら普段なら、『アタシに任せときなさい!』 の勢いを持ってお膳立て、
恋バナに乗った挙句、オンナならいっちゃいなさいよ、とどーんと背中を押してやるのが日常、
・・・・・・で、あったはずなのだけれど。
気の毒。
見るに忍びない。
不憫。
どれだけ考えてみても、どれだけ彼等に思いを馳せてみても、結局そんな似通ったような、
負の単語しか出て来ず、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
しばらく、
しばらく色々思案したその後、
ちらりと時計に目をやって。
「・・・・そろそろあの子たちが来てもいい時間よね」
丁度いいわ、とまるで自らに言い聞かせるかのよう、ひとりごち。
ヒールの踵を鳴らしながら、彼は、いや彼女は、トレーニングルームに向かうため、ドアを開けた。
「アラ、もう居たの」
トレーニングルーム休憩室の中に入ると、中にはすでに 『あの子』 の中のひとり、
バーナビーの姿があった。 椅子に落ち着き、何かの雑誌を眺めている。
「アナタ一人?」
「ええ」
聞きながらぐるりと中を見渡しても、彼が頷いたその通り、他に誰かの気配もなく。
ますます丁度いいわ、とネイサンは腹を決める。
「ちょっとイイかしら」
言いながらバーナビーの正面、
まさに膝と膝を付き合わせて突き詰められる位置に自らも椅子を持ってきて腰掛け、
むしろ、・・・・腹を割って。
「あのね、」
「・・・・・・はい?」
こんなこと、聡いアナタはとっくのとっくに自覚もしていて、
わかりきってるコトでしょうけれど、ときちんと前置いてから、告げた。
諦めなさい、と言ってやりたいのを懸命に堪えて、
「タイガーのことは絶ち切りなさい」 と忠告した。
「何がですか、何を言っているのか・・・・」
僕にはわかりませんが、とすっとぼけようとするバーナビーに、
「わからないっていうなら分からないフリを続けていてもイイから、これはアタシの勝手な独り言ってことにしてイイから黙ってそこで聞いていてちょうだい」
有無を言わせぬ空気を前面に押し出して、続ける独白。
あのヒトは誰にでも優しいし、
きっと誰のことでも真剣になって真面目に手助けしてくれて庇うだろうし、
アナタからしてみればあのヒトはアナタの人生を変えてしまった存在だけれど、
あのヒトからしてみればアナタはただの仕事上だけのパートナー、
実の娘とは最初から勝負にもなんにもならないし、
亡くした妻などとはそれこそ比べる対象にすらなっていない。
そりゃあ最初の頃の、反発し合っていた頃だったなら、アナタがもっとタイガーを好きになってくれればいいのに、って密かに思ってはいたけれど、今ココにきてそれが本当になってしまったら、
やっぱり物凄く見ている方も切なくて、耐えられない。
もちろん察知出来てるでしょうけど、ブルーローズもあのヒトのことが好きで、
でもアタシはアナタもタイガーもブルーローズもみんな可愛くて全員スキだから、誰にも哀しんで欲しくないのよ、
と。
長いのか短いのかよくわからない独白(の形を取った、警告) を終え、
視線を上げてバーナビーを注視する。
すると。
「やはり僕には、あなたが何を言っているのかよく・・・・わかりませんが、・・・・・・大丈夫です」
そう、わからないの、
わからなかったの。
でも何が大丈夫なの、どう大丈夫なの、と重ねて問えば、
「ブルーローズに、望みはきっとありませんから。 泥沼に陥ることは無い。
だからあなたが哀しむこともたぶん、無いはずです」
―――――――――― 馬鹿ね。
アナタに比べたらブルーローズの方が余程望みも、チャンスもあるのよ間違いなく。
だからこれ以上、間違っちゃ駄目よ、と低く、これまでになく低く告げたところで。
バーナビーの返答を待つ間もないうち、
「お? これは珍しい組み合わせだな」
「あっホント! ファイアーエンブレムとバーナビーって、なかなか見ない組み合わせよねー」
全く一体どんなタイミング、まるで計ったかの如く、
ひょこっと揃って現れたのは当の二人、三十路と女子高生。
もしかして少し聞かれたか、とバーナビーは瞬ヒヤリとしたのだが、
二人の様子からして、まったくそんな様子は感じ取れず、ましてや勝手にヒトの話を盗み聞きするような二人ではないことも知ってはいるから、そんな素振りは欠片も見せず。
「ああ、ナイスタイミングです虎徹さん」
「ん? どしたバニー?」
屈託のない表情。
彼が誰に対してもそんなカオをしてくれることくらい、言われずとも判っている。 だから。
失礼、とネイサンに対し会釈しつつ、椅子から腰を上げた。
「虎徹さん」
もう一度名前を呼ぶ。
たぶん今、自分は恐ろしく馬鹿なことを考えている。
―――――――――― 馬鹿ね。
つい今さっき、どこか痛いほど真剣に響いたそれが、ずっと耳について離れない。
聴こえなかったふりをすることも出来たし、
理解しないふりをすることだって、そうしようと思えば簡単に出来たのだけれど。
そんな今更バレバレな素振りで誤魔化すなんて無様な真似はしたくなかったし、
かと言って真っ向から彼(彼女?) に向かって否定できるほどの弁舌も、
実力も自分には無いことも重々、バーナビーは承知していたから、ただ虎徹に。
「ちょっと、話が・・・・・・・。 少し、いいですか」
「へ? なんだ、真面目な話か?」
「・・・・ええ」
突然話を振られ、きょとんとする虎徹のすぐ横、
ブルーローズの真っ直ぐな視線を感じながら。
―――――― アナタに比べたら、ブルーローズの方が余程望みも、チャンスもあるのよ間違いなく。
ネイサンの言葉が、どこか遠くで響くけれど。
甘えたもの勝ち、なのだと思う。 思っている。 甘えて頼って縋って訴えて、束縛した者の勝ちだ。
早い者勝ちだ。 だったら仕事上のパートナーというのは最高のスタンス。
そのためだったら、どんな醜態だって晒してやる。
「―――――――― すみません」
喉の奥、掠れた一言。
忠告という形での気遣いをくれたネイサンと、一番の原因の虎徹と、
何も知らないブルーローズへの謝罪は三人合わせてたった一言、一度で済んだ。 すみません。
「? なんでいきなり謝られ・・・・・・て、おいおいおいドコ連れてく気なんだって・・・・!」
なにがなにやら、と言った様子の虎徹の腕をバーナビーは掴んで、そのままずるずるとトレーニングルームの外へ連れ出していく。
「何アレ、どうしちゃったの?」 と呆気に取られるブルーローズと、
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
重い、重いタメイキをついて物凄く何か言いたげなネイサンをそこに残して。
ここから先、彼等が何処へ行くのか、
どうすれば一番いいのかなんて誰にもわからない。 わかる訳がない。
バーナビーと虎徹はもう、もうそれぞれ仕方がないのだと思いつつ、
少なくとも何も悪くないブルーローズが、できるだけ傷付かなければいい。
いっそのことアタシが全員喰っちゃおうかしら、とそうすれば角も立たず丸く収まって大団円よね、
と半ば本気でネイサンは考え、
あああでもでも三人とも全員が全員、面倒くさすぎて食あたり起こしそう、
やっぱりアタシの手には余り過ぎるわと結論づけて、
どうするのバーナビー、
どうするつもりなの若造、
でもどうせ、
どうせいつか近いうちに大ダメージを受けるなら、
傷を負うなら。
せめて、その後はいい男になりなさいな。
そうそっと心の中で諭して、
ネイサンはモードを切り替え、その後はブルーローズと女子トークに熱中することにした。
この後、バーナビーと虎徹の間に何かあったのか、
何か起きたのかは、まだどちらとも会っていないので分からない。
みつ様からのリク、「暗い話」 でございました。
これまた暗い・・・のか・・・・しかも、虎兎と言っていいのか・・・・(滝汗)
たぶんこのあと、バニーちゃんはおじさんに当たって砕けた・・・んじゃないかなあ、と思います(・・・・)。