[ Science reaction ]







今年の夏も、猛暑だった。
そんな中、汗水流して細身の身体でせっせと働いた。 世間の平和を守った。
そうやって9月後半まで果てしなく暑い、長い夏が、終わって10月に突入した。
先月までとはがらりと打って変わって、とてもとても過ごしやすい陽気が続いた10月だった。
だから、10月も末になって気を抜いた。
気を抜いて、風呂あがりに濡れた髪も乾かさず、
しかも涼しさを求めて、ベッドの横にある窓を開けて寝た。
そうしたら、一晩で冷え込んで翌朝、計ってみたら熱があった。
ただ熱っぽいだけならともかく、全身の関節がギシギシ悲鳴をあげ、
ちょっと洒落にならないくらいの悪寒まで襲ってきていたから、
仕方がないから、有給をとった。
そうしたら、夜も更けようとする頃になって、相棒が訪ねてきた。








「大丈夫ですか、虎徹さん」


「うう・・・・あんま平気じゃねぇかも・・・・」


そう、体調を崩したのは今をときめく(・・・・) タイガー&バニーの若くない方、
三十路も佳境に差し掛かったおじさんの方で、






―――――――――― ヒーローだって、風邪をひく。

































「39.5℃・・・・」
ベッドの中、寝込み状態の虎徹から差し出された体温計のデジタル表示を見て、
そのすぐ脇、運び上げた椅子に座ったバーナビーは小さく息をついた。
「・・・・どんどん上がっていきますね」
到着して、すぐに計らせたときには、まだ38℃ちょっとで軽くみていたのだ。
それがここ一時間の間で、ぐんぐん上昇して現在この体温。
インフルエンザもかくや、という体温だ。
とりあえずの場当たり的な対応、オーソドックスな応急処置として、
洗面所にあったタオルを氷水で冷やして濡らして絞って、
虎徹の額の上に置いたまでは良かったのだけれども。
その後、何とか熱を下げさせようとして、
常備してある救急箱の中をバーナビーがどれだけ漁っても捜してもひっくり返しても、
出てくるのはバンドエイドやら包帯やらガーゼやら消毒液やら傷薬やら、
とにかく外傷に対応しているものばかりで。
いわゆる解熱剤の類が一切、出て来ないのだ。
そしてようやく内服薬が見つかったかと思えば、これまた発見されるのは、
飲み過ぎ・食べ過ぎ用の胃薬、もしくは腹痛用、または咳止め薬といった諸々。
解熱剤どころか、総合感冒薬といったものが一つたりとも、見当たらない。
「・・・・・・・・・・」
あからさまに普段の虎徹の生活状況が浮き出まくり(・・・・) の救急箱に再び溜め息をつき、
まあ普段は確かに元気すぎるほど元気な貴方ですけど、と内心で呟きつつ。
「虎の霍乱ってやつですか。 でもせめて鎮痛解熱剤の一つくらい・・・・」
常備しておくべきです、とベッドの中の虎徹に告げ、
「とりあえず、解熱剤を買ってきます。 すぐ戻りますから」
そう言い置いて、椅子から立ち上がると。
「・・・・バニー」
「はい?」
布団の中、珍しくも(!) 弱弱しく呼び止められて。
「・・・・・あ、いや、何でもねぇ」
と思ったら、そんな言葉。
「何か、他に食べたいものとかあれば一緒に買ってきますよ」
「・・・・・いや、別にいい」
呼び止めたくせ、続くのはあまり元気も何もない、そんな会話で、
「それじゃ、大人しく寝ていてください。 20分で戻ります」
伏せっている虎徹にそう言い残し、最寄りのドラッグストアまでバーナビーは解熱剤を買いに出た。



















「すみません、遅くなって・・・・」
途中とドラッグストア内で、ファンの女の子の集団に捕まるというアクシデントに2件も遭遇し、、
戻って来れたのは20分をとっくのとうにオーバーした1時間後のことだった。
そうして半ば強制的に解熱剤を服用させ、水分も一緒に摂らせた後、
アポロンメディアに 「申し訳ありませんが明日もワイルドタイガーは有給で」 と代理で連絡を入れ、
枕元に置いた椅子に再びバーナビーが落ち着くまで更にあと10分。
気が付けば、もうあと少しで日付が変わるところまできてしまっていた。
「・・・・虎徹さん」
「・・・・ン?」
たぶん、名前を呼んでいたのはほとんど無意識だったのだと思う。
加えて、虎徹があまりにも静かなものだったから、てっきり眠りに落ちていたのかと思っていた。
だから。
「熱は、」
どうですか、まだ苦しいですか、と慌てて取り繕ったかのような台詞しか出て来ず、
なんていうか、
なんというか、
こんなふうに弱った虎徹を目の前にするのは初めてで、
バーナビーとしても変に調子が狂う。 どう対応していいのか、正直よくわからなくて。
だからだから、
ほとんど咄嗟に、乗せていたタオルを取って、その額に手を当てていた。
触れた額はまだ、相応に熱かった。
氷水で一度冷やしただけのタオルは当然にして役に立たなくなっていて、
これならドラッグストアで 『冷えピタ』 も買ってくれば良かったと思いながら、
「・・・・タオル、もう一度冷やして来ますね」
そう言うと。
「タオルは・・・・もういらねぇ。 代わりにお前の手、冷やっこくて気持ちイイな」
そんなふうに、返ってきた。
「・・・・基本、体温が低いもので」
「35.7℃だっけか?」
「よく、覚えてますねそんなこと」
「コレ覚えなかったら何覚えろってんだ。 お前に関する最重要事項のうちの一つだろうが」
「そんな冗談が言えるなら、割合と平気そうじゃないですか」
戯れのような、
言葉遊びのような、拙い会話。
冷やっこい、と称された触れたままの手のひらから伝わってくるのは、高い高い虎徹の体温で、
それなら、と額に置く手をもう片方の手に変える。
すると 「マジ、冷てーなぁ」 と感心された。
何を今更。
普段あれだけ身体を重ねる関係になってしまっているというのに、今になって低体温に感心されても。
・・・・と思いつつ、
薬を服用させたにも関わらず、なかなか下がる気配を見せない虎徹の熱が気にかかる。
が、当の虎徹は大して構い無しの様相で、
「・・・・今日、ハロウィンだったんだよなぁ」
何を呟くかと思えば。
「ホントならバニーのところに突撃しようと思ってたんだぜ、『トリックオアトリート!』 って言いながら」
「子供ですか・・・・」
「何言ってんだ、こういう行事モノは乗っかったモノ勝ちなんだっつーの」
楽しんだ者勝ちだ、と虎徹は小さく笑う。
「で、バニーから菓子貰ったら、カミングアウトしようかと思ってたコトがあってだな、」
「?」
「実は俺は、ウン年前のハロウィンの夜に悪い魔法使いに呪いをかけられて、こんなオジサンの姿にされてしまった美青年でな」
「・・・・・・・・・・・・」
「な、なんだそのカオ。 最後まで聞いてくれや。 ・・・・で、誰かに好きって言って可愛がってもらえねーと、元の姿に戻れねーんだ」
「あなたほど自分大好きな人が、何を言っているんですか・・・・」
それは、
それは、
本当に本当に他愛無い、
戯れ言。
タワゴト。
勿論そんなこと、言ってる本人だって、呆れたカオをしてみせたバーナビーだって、
最初からわかっている。 わかりきっている。
けれどこんな夜は、こんな時は、
あえてそんなふざけた会話が必要なときだって無いわけじゃない。
「だからバニー、お前さんの、」
愛情のかたち教えてくれよ、と小さく笑った虎徹に対し、


「充分すぎるほど見せてますよ。 ・・・・・・誕生日の夜を、三十路のオジサンの看病に費やしてるんですから」


「・・・・そっか、・・・・そーだな、この埋め合わせは、後で絶対するからな」
「あまり期待しないで、待ってます」
大して期待もせず、控えめに返事をすると、ここでやっと解熱剤が効き目を見せ始めたのか、
「ちょっと俺、寝る・・・・」
そう言って虎徹が、すうっと眠りに落ちる。
それを切っ掛けとして、ふと時計を見れば10月31日も残すところ数分になっていた。














ハロウィンの夜が終わるまで、
自分の誕生日が過ぎるまで、
あと少し。


Trick or treat.


今年、この言葉を口に出せるのはあと数分。


Trick or treat.


何かください。 でないと悪戯してしまいます。


そんなふうに今ここで囁いたら、このおじさんは一体どんな反応をするだろう。
(おそらく眠っているはずなのだが)


菓子など必要としていない。
誕生日なんてどうでもいい。
かわりに欲しいのは、


「・・・・・・虎徹さん」


たぶん無意識、きっと我知らずのうち、おそらく衝動的に、
その唇に唇を落としていた。
熱のせいかかなり熱い。
眠っている虎徹が、息継ぎなんて出来るわけがないからこのキスは触れるだけ。
ただ重ねただけ、の。


Trick or treat.


もっとください。 でないと僕はヒーローにあるまじきコトをしてしまいそうです。


誰もが知るハロウィンの常套句を故意に歪めて解釈させながら、
ゆっくりと唇を離す。
キスなんてもう何度も、それこそ覚えちゃいないほど交わしている。
それでも妙に気が逸って落ち着いてくれないのは、普段と立場が違うせいなのか、
それとも。


【一度経験してしまえば無垢には戻れない。
それは化学反応を起こすのと同じで、 もう二度と元には戻れない】 


と表現したのは確かユングで、それに倣えば。


――――― Trick or、


ください。 そうでないと、


――――― or、


・・・・・・それならこの人には、虎徹には、出逢ってからそれこそ、いろいろなものを貰った。
それこそ抱えきれないほど、有り余るほど、 ・・・・自分には勿体無いほど。


でもまだ足りない。 到底、足りない。


もう一度、ふ、と唇を落とす。 瞬間、吐息が触れた。
けれど虎徹が目を覚ます気配は無く、
一方的に重ねた唇の間、鼓動が荒くなる。




ハロウィンにかこつけて、
誕生日を盾にして、
決まりきって古びた常套句、パターン通りの悪戯とおねだりなんてしないから、




だから、
これから先ももっともっと欲しい。
自分でもこれ以上、彼の何が欲しいのかわからないけれど、
全部欲しい。
そうして貴方の全てをくれたら、 僕は、




「・・・・・・僕は、」




唇を再び離し、そこまで考えたところで。




「、・・・・・・!」




ハッ、と瞬時にバーナビーは正気に返る。 正気に戻る。
途端、
僕は一体何を考えていたんだ、何を考えているんだ(・・・・)、と我に返りまくり、
一人あわあわ狼狽えそうになり、気付けばたった30秒前、11月1日になっていた。
今だけは、自分の体温も36℃台になっているだろうと思った。 何故ってやたら鼓動が早い。
そんなバーナビーの心情知らず、
虎徹は引き続き、よく眠っていた。
朝まで、起きなかった。
だから朝まで、椅子に座ったまま、その寝顔をみていた。































翌日、続けて見事にバーナビーも風邪をひいて(※虎徹のがうつった?)、
互いに回復し、誕生日を祝えたのは結局、それから一週間後のことで。


「・・・・・お前に風邪、うつすようなコトしてねーよなぁ? んなコト出来なかったよなあ」
大体、伏せっててそんな余裕さっぱりなかったぜ? と首を傾げる虎徹に。
まさか自分から(しかも眠っている風邪引き三十路に)
キスをしたなどとバーナビーが言えるはずもなく、
「〜〜〜〜空気感染なんじゃないですか?」
そう言って疑問符に疑問符で返して誤魔化して、
いつもと一緒、仕事の後の虎徹宅でのほんの一杯、
そこから始まる悪戯ならぬ甘い甘い戯れに、虎徹と二人、耽ることにした。










given to me,  x x x











涼凪さんに無理矢理(・・・・) 押し付けたシロモノです。
まじで土下座のうえ、逃走逃亡したいです・・・・・うう・・・・
低体温にハロウィンに誕生日ネタ、三つ全部詰め込んだら全てが 「ちまっ」 としてしまいましたスミマセン・・・・!
そしてコレは一体、バニーちゃん何歳の誕生日の話なんだろう・・・・(苦笑しつつ遠い目)。

(追記)
でもって↑↑↑のような素敵すぎるイラストまでいただいてしもうた・・・・
ミジンコでくじらを釣り上げたようなものです(真顔)。 いつか半端ねぇ裏モノでお返ししたい(笑)。